枚方市穂谷自然農園での堆肥作り見学記

 

 パナソニックの社員食堂から出る食品残渣を集めて堆肥にリサイクルし、自然農園を営んでいる方がおられるので、是非、取材してほしいと当会会員の小寺悦子さんからの依頼で、513日、晴天の下、穂谷を訪ねました。穂谷は枚方市の最南東部に位置し、JR学研都市線の長尾駅からバスで約15分のところにあります。このあたりは朝日新聞創刊130周年記念事業の「にほんの里100選」に選ばれたところです。空気が良く、ほっとする懐かしさを覚える日本の里山風景が広がっています。小寺さんと理事長の森住さんも一緒に農場主の上武 治己さんにお話を伺いました。上武さんのところには見学者も多く、この日も家業の農業を継ぐという青年が上武さんの農法を学びに来ておられました。 

 

自然農法を本格的に始めたわけ

上武さんは地質調査の会社に勤めておられましたが、今から5年前、55歳の時に退職した後、農業

を生業として来ました。それまでも本業の傍ら農業をやっていたそうですが、本格的に有機農業に取り組もうと思ったのは、NPO法人ひらかた環境ネットワーク会議のつながりがきっかけです。会員仲間は土地がないが理想に燃えている。自分には土地があるので、「実践しながら考えよう」ということで試行錯誤が始まりました。

 穂谷自然農園の野菜は化学肥料、農薬、除草剤などをまった

く使わないで栽培しています。堆肥の原料はなるべく購入せず多くの提供者から集めて来ます。関西外大や三宮神社の落ち葉、枚方セラピー牧場のぼろ(馬糞)JA北河内や坂口米穀店の米ぬか、不二屋食品のおから、各家庭から出る食品残渣、公園街路樹の剪定枝チップ、パナソニック社員食堂の乾燥残渣(10t)です。それらをブレンドしてEM菌を使って発酵させた「ぼかしT型(米ぬか主体)」と「EM1活性液(EM1を培養させて作る)」を散布、攪拌、切り戻しを十分行い熟成させた後、土壌改良剤として圃場に返します。肥料は枚方市立蹉跎西小学校の給食(500gや関西外大の食堂(4t)、大阪ガス2工場の食堂(年約1.5t)の乾燥残渣と米ぬか、「レストラン露菴」や「すあん」のてんぷら廃油(2t)、もみ殻等にEM1活性液、糖蜜を加え嫌気発酵させ熟成した「ぼかしU型」を圃場に投入し、EM1活性液を散布して地力を高めます。

 堆肥置き場も見せていただきましたが、ふかふかして攪拌すると温度が上昇し、湯気が上がってきます。いやなくさい臭いはし

ません。むしろ土の良い匂いがしました。

 

農場に理解し協力してくれる人たちと新しい里山保全運動

私たちがお訪ねした時は「ぼかしU型」の肥料作りの手伝いに近隣の自治会から男性が3人来てお

られました。「農薬・化学肥料に頼った慣行農業をやっている人にはいくら説明しても、なかなかわかってもらえません。素人の人には実際に体を動かしてもらえれば有機農業の良さはわかってもらえます。」と上武さんは話します。後継者はと尋ねると、「息子も娘もいるが、今のところ他業種で働いており後を継ぐものはいません。けれどね。法人化のような組織を作りたいと思っているんですよ。身内でなくてもいいじゃないか。人を集めてもう少し大がかりな農業をやりたいという強い気持ちになっています。」現在は近隣自治会メンバー(11名)、シルバー人材(6名)、自然塾メンバー(5名)、その他助っ人(6名)が農園作業に関わっていますが、実際、堆肥作りの研究に時間を取られていると野菜を作る時間がないそうです。「やはり野菜の栽培にも携わっていたいので理想的なのは部門別に仕事をすることです。堆肥作り部門、栽培部門、販売部門の三つです。」

若い人が農業をやりたいと来たそうですが、「ろくに仕事も覚えず、給料をくれと言ったり、指示待ちで自分で工夫しようとはしません。」農業の学校へ行くといっていなくなったそうです。そうかと思うと50代の男性でコンピューターの仕事についていた人が来て、やる気があったのだが、腰を悪くして休んでいるとか。また復帰してくれると良いですね。(6月から再帰されているそうです。)

 目標は、穂谷全体が自然の農園「有機の里 穂谷」と呼ばれるように、誰でも楽しく嬉しい農業が気軽にできるようにすることだそうです。「農作業は辛い、きつい、汚い、暗いイメージを持っている方が多くおられますが、一生懸命になればなるほど、本当は健康で気持ちよく、きれいでこんなに変化に富んだ生活はありません。」と農業に対する熱い想いを語ってくださいました、

生ごみの減量と野菜作り

 枚方市の廃棄物減量等推進員でもある上武さんは、「枚方市はごみ減量に取り組んでいるが、まだ2割しか減らせていません。家庭からの生ごみを分別して回収、堆肥化すれば、もっともっと減らせます。モデル地区を設けてやってみると良いのです。できた堆肥は枚方市内の農家に引き取ってもらい、取れた野菜を提供者に渡るようにすれば循環します。」

野菜作りのつながりはまだあります。NPO法人空畑クラブからのお誘いがあって上武さんは、今年4月のロハスフェスタに出店、吹田市の万博公園の会場で野菜を販売したそうです。そこで今日、見学に来ていた青年と出会いがあったのだとか。出会いを大事にするので、基本的にはオファーが来たときは断らない主義。この青年は土作り、肥料作りについて熱心に質問していました。こうやって上武さんの農業のやり方は受け継がれて行くのですね。彼の話から、さらに箕面ビールと麦絞り粕引き取り、野菜販売が成立。出会いはさらなる展開を生むようです。

いざ、パナソニックへ食品残渣(乾燥し一次処理したもの)を回収へ

上武さんの軽トラックに同乗し、守口市のパナソニック本社、門真市のパナソニック生産革新本部、

大阪市城東区のOBPの三箇所へ食品残渣を回収に向かいました。パナソニックへは月2回、回収に行き、一年間で約10tの乾燥食品残渣が集まります。水分量は2025%なので乾燥する前の食品残渣は3640tに相当します。往復移動距離65q、所要時間約3時間で、この日の回収量はパナソニック本社(210s)、門真市のパナソニック生産革新本部(116s)、大阪市城東区のOBP54s)でした。

実は、パナソニックの食品残渣は以前、小寺さんのNPO法人 シティズンホームライフ協会が回収し、

堆肥化していたのですが、引き受け先のコスモが経済的な理由でストップ、その後は松原市の肥料業者に引き受けてもらっていました(当会会報2007年度NO.3)。諸々の事情があり、NPO法人ひらかた環境ネットワークの縁で上武さんが集めるようになった次第です。

おみやげにいただいたえんどう豆

袋いっぱいの取れたてのえんどう豆を奥様からいただいて帰りました。さっそく作った豆ごはん、と

てもふっくらして市販のものとは大違い。食べ物の命をいただくという実感をしました。

養老 孟さんが、都会と農村の参勤交代のすすめを書いておられましたが、とかく追われている現代

人にとって農業は格好の癒し効果があるのではと思いました。こんなにおいしい作物を収穫する喜びを味わいに、今度は農作業の体験をしにまた訪ねたくなりました。          (水川 晶子記)