高槻市のごみ焼却施設建設問題(その1)

 

 高槻市では1980年建設の450t/日炉が老朽化したとして、150t/日炉を建設しようとしています。95年に建設した360t/日炉と合わせて510t/日規模になります。人口36万人にしては大きすぎますが、事業系ごみが大阪府内で4番目に多いことが一因です。

 

DBO方式で建設

 高槻市は、この炉を建設するにあたり、これまでの公設公営方式でなく、公設民営方式(DBOと略称、デザイン(設計)ビルド(建設)オペレーション(運営)=設計費と建設費は行政が負担、運営は民間という意味)の方が約1割安くなるとして、この方式で建設しようとしています。DBO方式は、メーカーが建設した炉を高槻市がこれまでのように直営若しくはメーカーの子会社に委託して運営するのでなく、落札メーカーが建設のみならず20年間の運転も引き受ける方式で、総コストが安くなる可能性があるので、国が勧めている方式です。

 DBO方式は、焼却施設だけでなく、公民館・病院等々の行政の施設の建設や運営を民間のノウハウを借りてコストダウンを目指すPF1(プライベイト(民間)ファイナンス(資金)イニシチャティブ(経営)=民間企業が建設運営を全て引き受け行政は使用料を支払う)方式の一つです。純粋のPFIと違うところは設計・建設費を税で負担するところです。似た方式に指定管理者制度があり、これは既設の行政の施設の運営を民間に任せコストダウンを図る方式で、公民館・図書館・水道施設等々で既に行われています。

 

3回もずさんな調査

 高槻市はDBO方式は公設公営方式より、約1割コストダウンできると計算しました。疑問を持った二木洋子高槻市会議員が調べると、1回目は、DBOを進めるのは時期尚早という結論を出した豊中・伊丹クリーンランドのデータの都合のよいところを借用していたことがわかったのです!豊中・伊丹(711t/日)に対し高槻は150t/日だが、総額は規模に比例するから削減率はほぼ同じという勝手な仮定をして、削減率は約1割程度としていたのです。例えば、重量物を支える基礎工事費は地盤の様子により大きく変わりますから、比例するという仮定はあまりに杜撰です。二木さんが、08年3月にこの問題を指摘したところ、高槻市は再調査することになりました。

 一つは、先行都市調査で、豊中・伊丹に加え姫路市、山形県環境事務組合の3つを調べたがいずれも削減率は約1割であったという調査です。

 二つは、焼却炉メーカーへのアンケート調査で、16社に協力依頼をしたところ詳しい調査には9社がOKしてくれました。このうちから施工実績のあるメーカー7社を選択したところ2社が辞退し、5社が回答することになりました。その回答を基に計算したところやはり約1割削減できることがわかったというのです。二木さんが調べると、5社のうち、わずか1社しか比較できるデータを出していないのに5社の削減率を平均して1割減という結論を導いていたのです!それで高槻市はコンサルに調査依頼をせざるを得なくなり約4千万円の委託費で11月に報告書を出してもらうことになりました。

 

適正な調査とは?

 高槻市は20年間で、総額180億円の買い物をするのにこんな調査しかしていないのですが、豊中・伊丹も似た調査しかしていなかったため、市民の理解を得られなかったのです。私達市民も適正な調査イメージを今は持っていません。それで、ごみ問題学習会の重要テーマとして、共に取り組むことにして、10月5日(月)に高槻市の担当者と話し合いをすることになり、現在質問と要望書を参加者で作ろうとしています。 

 

住宅を買う場合と比べる

 市民にとっての最も高額な買い物は住宅なのでこれと比べてみました。公設公営方式は、普通に行われている住宅購入方式に相当し、設計・建設・施工はメーカー任せですが、購入後の使用は居住者責任です。これをDBOに変えることは、住宅購入費に加え、20年間のガス代・電気代等の維持管理費、修理費こみで、安いメーカーを探すことに相当します。この場合、各メーカーから「見積書」を出してもらい、削減率を比較し、最も大きいところから、その根拠を確かめ、信頼できるか否かを確かめていくのが普通です。 

 高槻市は、当初はこれを省き豊中・伊丹の結果を参考にしただけだったのですが、メーカーに尋ねざるを得なくなり5社から「見積書」に相当する「回答書」をもらったのです。すると1社だけがDBOの方が約16%安くなると回答したのですから、この会社にこの根拠を詳しく確かめ信頼できるか否かチェックすることが必要になります。

 ところが泣きどころは、「見積書」の分析能力がないことです。そのため最近は、住宅購入の時も、メーカーとの間に建築士に入ってもらう事例が増えています。高槻市もこの能力がないのに、自前でやろうとして二木さんに批判され、能力があるとされるコンサルに委託せざるを得なくなったのです。

 

コンサル・学識経験者は大丈夫?

 ところがコンサルもこの能力がないのです!豊中・伊丹では有名な日本総研に委託しました。そこはメーカーからデータを出してもらい削減率の計算はしましたが、そのデータの信頼性は一切チェックしていなかったのです。その恐れがあるので豊中・伊丹では技術系の学者だけでなく経済系の学者も参加した委員会を作りそこでチェックしてもらおうとしたのです。ところが行政がDBOを進めたいことを知っている彼らは、最も肝心な信頼性チェックをせず約1割減が正しいとして議論を進めたのです。

 ストップをかけるのに役だったのは、公募の委員が参加していたことと、パブリックコメントを求める制度があったことです。坂本豊中市会議員とこの市民委員と私が学習会をしてその成果を委員会で発表して問題点を指摘しました。それとパブリックコメントに応募した多くの市民は、民間業者に運営を任せることの不安を解消する仕組みが整っていないことを指摘したので、委員会は時期尚早で更に検討が必要という結論を出したのです。 

 

コンサルの調査手法の問題点

 DBOを進めたい行政は、こちらの方が安いことを証明してもらうため数千万円の委託料を支払ってコンサルに委託しています。どのコンサルも限られたメーカーにアンケートで問い合わせるので、おおよそ1割安くなるという同じような結果になるのですが、詳しく検討すると、平均が1割程度ですから、これより安いところもあれば高いところもあるのです。コンサルはなぜそうなるのかを調べるべきなのですが、その分析は一切しないで、メーカー提示の数字を書いてあるだけなのです。

 両方式の費用を比較する際、@建設費、A人件費、B維持管理費、C用役費に大別して、各項目をメーカーに問い合わせています。

 コンサルに委託しなかった高槻市も、5社にこの4項目を尋ねると、4大費用全てに答えたのは1社、4社は@建設費、B維持管理費、C用役費は答えず、2社はA人件費も答えなかったのです。主な理由は提示された条件では計算しがたいからだそうです。コンサルの場合はこれではすまないので、条件を再提示するのですが高槻市はさぼったのです。

 それは高槻市のみならず殆どの行政が、4大費用項目の積算ができないため、どの点をコンサルに専門的に調べてもらう必要があるのかがわからないまま、コンサルへの発注仕様書を作っているからです。高槻市の発注仕様書では、「市場調査及びVFMの算出」(VFMとは削減率のことです)と「事業方式の決定(定量分析・定性評価のまとめ)」と簡単に書かれているだけで、最も肝心な「メーカー提出数字の信頼性調査」や「民間の焼却施設との比較」などは指示していません。 

 

メーカーの値を平均して削減率を求めている

 しかし、メーカー別に4大費用項目は一応示されますから、これをどう活用するかが次善の策になります。各項目別に一番安いメーカーをピックアップし、なぜ安くできるのかを詳しく尋ねていくと、信頼できるメーカーが見つかることになるから、この調査を専門家の力を借りながら精力的に行えばよいのです。家を建てるとき建築士と相談する当然のことを、なぜか市の職員はする気にならず、メーカーの平均値を計算して削減率を計算するのです。5社の各項目の最高額と最低額を比べてみると以下のようになっています。

@建設費は最高額が90億円、最低額が60億円と33%も違う。

A維持管理費は最高額が2.68億円、最低額が1億円と60%も違う。

B用役費は最高額が1.1億円、最低額が−700万円と、100%も違う。

CDBOの人件費も最高額が2.5億円、最低額が1.7億円と32%も違う。

 誰でも、なぜ安くできるのか?質を落としているのではないか?等を確かめたくなるのに、行政職員はそうしないで、建設費の平均は80億円などと計算して1割安くなるという結論を導くのです。

 

1割程度なら方式によらず安くできる

 談合問題を起こした枚方市と同規模の焼却施設を宇治市・城陽市などで構成する城南衛生管理組合は、120t/日炉2基を、枚方市のほぼ半額の58億円で受注しています。

 マンションなどの定型的な汎用製品と違い、一品生産の典型である焼却施設は、完成までのさまざまなリスクを考慮して応札額を決めるため、受注したいメーカーはこのリスクを低くして単価を下げたり、受注確定後に必要な部品や仕事を発注するから、半額でもそれなりのものを造るそうです。結局、“掘り出し物を買うには目利きになる”と1割程度なら容易に安くできるようです。(記 森住明弘)