焼却炉の寿命について(続)

 

ごみ焼却炉(清掃工場)の寿命には、償却期間などで事務的に決められる寿命、公害防止などの法規制強化による寿命、ごみ質の変化に合わなくなって迎える寿命、設備機器それぞれが使い傷むことによる寿命、など様々な寿命があり、それらのうち本当の寿命と思えるのは機械装置が動かなくなる設備機器の寿命です。

しかし設備機器は修理取り換えができるので焼却炉の寿命とは言えません。私は建物の寿命がつきる時がその焼却炉の寿命ではないかと思います。以下に装置や設備の寿命であると思われる例をご紹介いたします。

 

《新設炉でも最初の寿命は数年でやってくる。》(電気関係の例)

新設の焼却炉であっても使えば部品取替えや整備をしなければなりません。故障も初期故障がひととおり通り過ぎた頃のことです。電気関係で故障した制御装置のある部品が手に入らなくなりました。供用開始し保証期間が過ぎて数年しかたっていないのに補修ができない事態が起きました。

なぜこのようなことが起きるかというと、焼却炉メーカーは契約前にはどのような性能、どのような形状かをおおまかには示していますが詳細な実施設計は受注してからされるものです。受注総額はすでに決まっているわけですから機器選定の選択肢のうちからなるべく安く手に入り、信頼性のあるものを選ぶであろうと思われ、すでに売り出されている実績のある部品が選ばれるものと思います。

例えば、制御装置の一部品として使われている制御用コンピュータを考えてみると、そのコンピュータは数年で型が変ると思われます。生産停止された旧型品の補修部品は6年ほどはありますが、良くても10年くらい経てばほとんど手に入らなくなります。この10年が問題です。

焼却炉は発注してから竣工するまで4年前後はかかります。受注メーカーは受注時点で商品として流通している部品(コンピュータ)を使う設計をします。焼却炉に組み込まれ、試運転を経て発注者に引き渡され供用開始となります。その頃にはコンピュータは型が変ったり生産停止となる時期になっています。焼却炉の保証期間が過ぎて数年もすれば先述の10年近くになっているのです。発注者側からみれば竣工時点から年数のカウントが始まるわけですが部品はすでに古いものとなっています。万事がこのとおりという事はありませんが。

我々のある制御装置の部品は修理業者がどこかで在庫品を探してくれて事なきを得ました。

 

《ガス冷却装置の寿命は意外に早く来る。》(水噴射炉の例)

私が最初に携わった炉は水噴射式ストーカ炉でした。水噴射室が炉出口の横にありガスが降下しながら水噴射冷却されるもので、耐火レンガ積みの四角い断面のものでした。壁面のノズルより噴射された水が蒸発しきらずノズルの反対側の壁に掛かるのです。濡れるためダストが付きやすく、レンガに滲みた水が酸性であり外側の鉄板やレンガの支え金物等の構造物を腐食しました。壁面も内側に膨らんできたので竣工後数年で支柱の鉄骨以外はすべて更新しました。昭和50年頃の話なので炉メーカーも試行錯誤のところがありレンガの大きさや積み方を全く変えてしまいました。

我々工場側も知恵を絞りガス冷却室にガスの偏流があることを知り、流速の早いところに水を多く、遅いところに少なくなるようなノズルを選定してすべての水が蒸発するように運転管理しました。その後焼却炉が更新されるまでレンガ再積み替えはありませんでした。

《ガス冷却装置の寿命は意外に早く来る。》(ボイラー炉の例)

焼却炉がボイラー発電付きの炉になりました。この炉は燃焼ガスを炉上にあるボイラーに熱吸収させることでガスを冷却します。炉の出口にはボイラー水管で囲まれた二次燃焼室があり、ガスをあまり冷やさず十分燃焼するように断熱耐火材を張り付けてあります。二次燃焼室から出たところ以降は水管が裸でガスの熱を奪うようになっています。

現実は火炎が二次燃焼室からはみ出して裸のボイラー水管壁を腐食してしまい、竣工後数年のうちに当初十分な余裕があった水管の肉厚がみるみる減少して基準肉厚を割り込むことは必至となり広範囲の水管取り換えを余儀なくされました。本来なら2桁年は使えたはずでこれは予期せぬ事でしょうが、ボイラー寿命といって過言ではないものだったと思います。その後、耐腐食対策並びに燃焼改善を実施して減肉防止に努めています。 

 

《配管の寿命、余裕のない工場は取り換えるのが至難の業。》

ボイラー付きの炉が竣工より15年ほど経ったころでしょうか。プラント用水の配管があちこちで漏水しだしました。これは本当に配管の寿命と思われます。通常焼却炉廻りの配管には鋼管が使われており、鋼管の外面はペンキ仕上げや保温巻で化粧されています。内面は鉄のままであり流れる水の質によっては腐食が進みます。鋼管には通常鋼板を丸めて製造される都合で電気溶接の筋があり、この溶接部分が局部腐食して穴が開き漏水の原因となります。また錆こぶができたところが薄くなり穴が開いたりします。メッキ鋼管を使ってもねじ込み部などが部分的に腐食してくる場合もあります。

漏れを起こした配管の漏れ位置を特定できれば応急に漏れ穴に木栓を打つ、ゴムを当てがいバンドで締め付けるなど仮補修をします。このようなことを繰り返しながら何年も過ごす場合もあります。このような事態があちこちに発生してくると早く工場全体を更新してほしいと思いたくなります。

配管を取り換えるには炉を全面停止して取り換えることができればよいのですが、時間的制約を受けることが多く炉を運転しながら別ルートを作っていくことになります。建物に構造的余裕があればよいのですが建設当初から配管を取り換えるスペースを確保してあることはあまり無いように思います。配管の設置場所についても取替えやすい位置ではないことが多いようです。

我々の場合には取り換えは定期整備で停止した際に計画的に何期にも分けておこないました。新しい配管は、現場の判断で腐食に強いライニング管に変更したり、場所によっては塩ビ管にしたりしました。

 

以上のような例は焼却炉全体の寿命とは言えないのですが、取り換え部品が供給されなくなればその機器の寿命となり、少しオーバーですがその機器を含む装置の寿命となります。ガス冷却装置のような大型のものでも寿命といえるような大きな不具合が早々に出ることがあります。でも建物やその他の装置が健全ならば部分更新や少々大きめの修理で寿命をつなぐことができます。

焼却炉の配管は、漏れなどを起こすと錆が出たり汚れたり工場内の見た目がみすぼらしくなり、より寿命が早まっているような気になります。配管には水だけではなくごみ汚水・酸性液・アルカリ性液や高濃度の塩水が通されています。これらが漏れた場合には装置の外観が腐食したり電気設備に被害が出たりします。建物は耐汚・耐薬・耐塩を考慮されていない場合が多く、鉄骨やコンクリートが腐食されたりして、建物自身の寿命までも短くしてしまうことになります。適切な対応が必要です。

寿命を左右するのは良好な設備と共に携わっている人が大切です。

以上

(元某清掃工場 工場長 Y)