容リプラリサイクル問題(その7)

 

田中勝部会長「容リプラはリサイクルせず熱利用すべき」と発言

 1年ぶりにこのテーマの現状と、当会の取り組みについて報告します。昨年の9月号では、市民派市会議員との学習会メンバーが環境省へ提出した質問書への回答と、それを踏まえての改善案を紹介しました。環境省も、私たちの漸進的改善案を活かすべく、審議会で、改善策を集中的に議論して、今年度からはマテリアルリサイクル業者の落札率を、全申請量の半分以下にするなどの小さな成果を上げつつ、この8月に「中間とりまとめ案」を公表し、9月5日までパブコメを求めていました。これを読んでみると、私たちが要望していた“市町村に再商品化手法の選択権を与える”ことについては、17頁に『再商品化手法を選択できる仕組みを設けることは一定の効果が見込まれるものと考えられる。』と書かれ、導入される可能性が高まりました。

 ところがこの直前の7月24日付の朝日新聞に、その責任者の田中勝(中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会長)さんが、「容リプラはリサイクルせず、熱利用した方がよい!」という無責任極まる発言をしているのです。 

 以前会報で武田邦彦さんの同趣旨の発言を山下が批判しましたが、田中さんは国のプラスチックリサイクル政策を決める責任者で、容リ法を推進してきた重要メンバーですから、その人がリサイクルを否定するのなら、先ずは自身の不明をわびるべきということになるのに、それは一切無く、国の政策を真っ向から批判しているのです。

 記事を書いたのが杉本裕明記者。名古屋市のリサイクル政策を愚策と批判するために、“あきれて東京へ引っ越した” 学者がいると紹介した人です。ごみ問題に関心が深い記者でも、現場を自分の目で確かめず、頭の中だけでイメージを描いてしまうと、どこがどのように間違っているのか気づかぬまま、誤った記事を書いてしまうことがよくわかるので、先ずは杉本記者の基本的間違いを2つ指摘します。

 

プラスチック焼却は90年代以降主流はホント?!

 彼は解説で、90年までは多くの自治体はプラスチックごみを埋め立てしていたため、『処分場の容量が限界に近づいた。』90年に入り、『高温で燃やせる焼却炉への切り替えが進んだこともあり、「可燃ごみ」への転換が進み、自治体の過半数に達した。』と述べています。

 実態は、会員なら常識になっていると思いますが、70年代前半、塩化ビニール製のラップなどが燃やされると、塩化水素が発生して、煙道や煙突の鉄部品を腐食させる大問題が発生しました。主要都市では焼却炉に湿式と乾式の塩化水素除去装置を付設することにより、塩化ビニールを含むプラスチック全てを焼却することにしましたが、豊中市、東京都などごく少数の自治体では、プラスチックを焼却せず埋め立てる方針を今日まで続けてきたのです。しかし、これら二都市のプラスチック非焼却政策は、市民の支持を得ておらず、まじめに分別する市民は小数で、多くは可燃ごみと一緒に捨てていたので、東京都では、記事によると2004年に田中さんが焼却政策を採用すべしという報告書を提出したそうですし、豊中市では会報でもお知らせしましたが、来年度から焼却政策を採用する予定になっています。

 また、プラスチックの含有量が増え炉温度が上昇しすぎて、炉壁の一部が融解する問題に対しては、炉壁を冷やす対策が功を奏したので、大半の焼却炉では、上限の950℃を守れていました。

 第二に、処分場が不足し始めた主因は、空間容量不足でなく、東京都日の出町、豊島問題など、大都市のごみが過疎地に埋め立てられる基本矛盾に、行政がきちんと応えられず、建設しがたくなったことです。

 第三に、ダイオキシン対策の一つとして、950℃以上になる溶融炉がもてはやされたのは事実ですが、それまで炉温が低すぎてよく燃えないためにダイオキシンが発生したのでは決してないから、「高温で燃やせる炉への切り替え」など殆ど進まないまま、溶融炉の欠陥が露呈し、この炉を造らなくても国が炉の更新を認めることになっているのです。 ダイオキシン対策の基本的なメカニズムは、炉の温度を上げることでなく、一酸化炭素がわずかでも発生するのを防ぐことですから、この工夫を丁寧にすると、上限温度が950℃もあればそれ以上あげる必要がないのです。

 国が溶融炉を勧めたのは、ダイオキシン対策が主でなく、埋め立て地不足対策で、焼却灰を1300℃程度で溶融すると、バラスの代わりに路盤材などに再利用されることを期待したからです。しかし、実際に運転してみると、溶融炉の稼働率は悪いし、溶融灰の品質が一定せず、同じ行政内でも、他の部局は後難を恐れて、路盤材としては使ってくれないことが明らかになってきたので、国は勧めなくなり、今年度からは、造ってしまった行政の溶融炉も運転したくなければ事実上しないでもよいというお墨付きを与えました。

 杉本記者は、これら3つの大きな基本認識の間違いをしているのに、田中さんはそれを黙認して、リサイクルするよりも熱利用した方がよいという主張だけを強調して貰おうとしているのです。

 

廃棄物処理政策は市町村の固有事務であることに気づいていない

 杉本記者は『同じプラスチックごみなのに、埋めたり、燃やしたり、リサイクルしたりと自治体の判断もまちまちで、国も判断基準を示さないことから、市民の誤解や混乱を招いている。』と解説しています。これは、彼だけでなく、多くの識者の共通誤解ですが、それを正そうとしない田中さんをはじめ、ごみ問題に関わる学識経験者の最大の問題だと思います。

 国は、プラスチックに関しては、公害対策、リサイクル対策をきちんとして貰うべく、市民や事業者も参加して公開で行われる田中さんが部会長の審議会で、必要十分な審議を保証した上で、答申を貰い政策化しているのですから、『国が判断基準を示さない』というのは看過できない初歩的ミスです。

 これを示しても、聴くか聴かないかは市町村の自由裁量なので、容リ法ができても、参加する市町村はまだ半分程度になるのです。その原因は、廃棄物処理法にあり、第4条に市町村の固有事務であるという趣旨のことが書かれているから、国は判断基準を示すことしかできず、それに従うか否かは市町村に任されるのです。それで、豊中市は、プラスチック非焼却政策を永らく続けることができたし、吹田市では、容リプラ焼却政策を続けても国からお叱りを受けないわけです。

 

田中さんの間違い(その1)

 武田さんをはじめとして、プラ熱利用派は、そうした方がよい根拠を示していますが、どれも思いつきや断片的な調査に基づく主張で、科学的とは言えません。一つは、リサイクルする方がかえって、CO2排出量が多くなるという主張ですが、これに関しては、田中さんは『試算の前提となる条件などが違うため、一律の結果にならず』多くなる場合もあれば、少なくなる場合もあるとして、片方に軍配をあげているわけではありません。しかし、同じ審議会に所属している石川雅紀さん(神戸大教授)が、委員長になって調査した結果を基に、審議会で議論を重ねた結果、環境省は平成21年9月15日付で、報道関係者に以下の内容の(おしらせ)をしたことがHPで確認できます。

プラスチックの分別効果については『(前略)分別せずに現行技術で焼却した場合との比較のみならず、全量高効率のごみ発電施設で焼却発電した場合と比べてもなお、容器包装リサイクルを行った方がCO2排出量が少ないこと等が明らかとなりました。(後略)』と結論づけているのですから、“どちらもあり得る”という主張は、公正性を欠き、自身に対する信頼感を失わせると思います。この調査は、部分地域調査でなく、全国調査を踏まえての結論ですから、“どちらもあり得る”部分地域での結果をも平均した結果であるからです。

 

田中さんの間違い(その2)

 二つめの初歩的間違いは『選別の過程で半分がごみになるのです。』という主張です。詳しい事情を知らない人は、“何という無駄!”という印象を持つと思いますが、実態は、マテリアルリサイクル業者が落札した場合には、「半分は燃料に再利用されている」のですから、“半分がごみ”という主張は大嘘!と言えるほどの虚言です。

 

田中さんの間違い(その3)

 でも田中さんの最大の間違いは『リサイクルコストの平均は焼却発電の3.5倍。(中略)リサイクルで二酸化炭素1トンを削減するのにかかるコストは10万円近くになり、いくら何でも高すぎる。欧州連合(EU)の市場で二酸化炭素の排出枠はトンあたり約1500円で売買されている。』という主張だと思います。“60倍もコスト高!の政策を環境省は進めている、許せない!”という反応を期待しての虚言です。

 初歩的間違いから指摘しますと、10万円は確かにコストですが、1500円はコストでなく売価なので、異質のものを同一基準で比べることはできません。普通の商売では、売価>コストにしないとソンをしますから、コストは1500円未満にできるはずと思いがちですが、排出権取引では、売価<コストが普通で、コストの一部でも取り戻すことができるとトクする極めて特殊な商取引なのです。例えばHPを検索すると森林0.3haを整備すると、年間CO2を1トン削減できるそうですが、そのコストは約100ドル(8千〜9千円)と試算されています。しかし、現実は食費も交通費も自前のボランティア活動になり、1500円ももらえると御の字になるわけです。

 第二は、CO2削減費用を比較するのなら、リサイクルせずに熱利用した場合に増加するするCO2を削減するために必要な設備費やその運転費用と比べるべきなのに、片方だけが10万円かかることを強調して高い!と印象づけようとしていることです。

 第三は、焼却発電の3.5倍という主張で、おそらくはトンあたり単価を比べているのだと思いますが、これは決して初歩的間違いとは言えず、私も含め誰もが陥りがちのコストをトンあたりの単価で比較してしまうことです。例えば箕面市の容リプラのリサイクルコストは30万円/tであるのに対し、収集費用も含む焼却コストは、4.1万円/t ですから、この比を取ると約8倍にもなり、高すぎ!という印象を持ってしまいます。

 主因は、プラスチックはかさばる割に軽い(これを見かけ比重が小さいと言います)ので、トンあたり単価で比べると、容易に数倍になることと、仕事に携わる人の人件費の2つです。トンあたり単価は非常に誤解を生みやすいので次項では、これに代わる妥当なコスト比較手法を考えてみたいと思います。

 

適正なコストを決める要因は?

1)トンあたりでなく年間総費用で比べる

 生駒市では、来年度から容リプラを分別収集する計画をたて、審議会で、意義があるのか?コストはどれくらいになるのか?等を一年かけて議論し、来年度から実施してもよいという結論になりました。その時のコスト計算をトンあたり単価で表すと、焼却コストは4.1万円/tで、リサイクルコストは10万円/tとなり、箕面市と比べると焼却コストは同程度ですが、リサイクルコストは1/3になりました。要因は箕面市が直営であるのに対し、生駒市は委託であることと、箕面市はモデル地区でのコストなので、設備の運転費等が割高になっているからだと思います。それでもトンあたり単価で比べると2.5倍ですから、焼却に比べて高い!という印象は免れませんが、これは見かけ比重が小さいからです。同じ作業時間なら、収集車に積載できる容量は可燃ごみとほぼ同じになりますし、ベルトコンベア上の異物を選別できる数も同程度になりますが、見かけ比重の差が数倍なので、トンあたり単価で表すと高く見えるのです。

 ところが、一年間の総費用で比べると、リサイクルコストは、焼却コストに比べ約10%高くなるだけということになりました。要因は、処理量が焼却量の6%程度と少ないからです。 容リプラをリサイクルしないで全量焼却する場合、年間で約2.2万tの可燃ごみを、9.2億円かけて収集して焼却しますが、リサイクルした場合、年間で1300tの容リプラを約1.3億円かけて収集して処理することになります。しかし、この分だけ焼却費用は下がりますので、合計では10.3億円になり、1.1億円増と6%費用が増えるだけなので、トータル費用で比べると数倍という結果にはならないのです。

 

2)住民の理解度がコストを左右

 第二に、住民の理解度によっても、コストは大きく変わります。生駒のモデル地区で調べた場合、協力して分別排出する家庭は約半分、その家庭が排出する量は、容リプラの約半分ということがわかりました。これを市民平均に換算すると、一人あたり全容リプラの約1/4程度、全市民では年間600tしか出してくれないのです。それで導入後、啓発努力を重ねながら1300t/年を目指すことにしたのです。

 それに、容リプラ法では“汚れたもの”は除くことになっているので、これが入っているとその分選別コストが上がるし、容リプラ以外のさまざまな異物を混入させると、これも手作業で除かなければならないのでコストがかさむ・・等々で、住民の理解度次第でコストは上下に大きく振れます。

 しかし、収集車や、選別施設は最大の1300t/年集まるとして計算しておかないと、後で困るので、当初は過大設備になりがちになり、計算以上のコストがかかるのです。

 

3)直営か委託かがコストを左右

 直営の場合、収集車には三人乗車が基本で、しかも人件費が著しく高いのでコストがかさみますが、民間に委託すると安くなることから、容リプラの収集も民間委託が進んでいます。

 

4)随意契約か競争入札かがコストを左右

 多くの行政では、まだまだ随意契約が多くなっていますが、2010年5月号でお知らせしたとおり、競争入札を取り入れることでコストを下げようとする行政が増えています。

 

5)仕事の中味を把握することが大切

 しかし、競争入札をすると、ダンピングしてでも仕事を取ろうとする業者が出てきて、従業者にしわ寄せされたりするので、お金以外の競争要件を勘案した総合評価方式が大切で、門真市ではこれを導入し、“まじめに仕事をする”業者に仕事が回る工夫をしています。 生駒市では、随意契約ですが、競争入札と同程度もしくは安い価格で受注する可能性があります。5月号で、収集委託費の算定の仕方の基本をお伝えしましたが、積算する時は、例えば3トンの新車を8台購入して、5年で更新等々の平均的な条件で計算しますが、随意契約を続け業者の内情をよく知っていると、平均的条件より安くする工夫を掴むことができるからです。例えば業者は、車は3トン車ばかりでなく8t、4t、3t等々の車を組み合わせて使う、古い車を長持ちさせ更新時期を遅らせる等々の工夫によりコストダウンをしています。業者も“安く”、“長く”仕事を貰える方がよいので、随意契約であるからと言ってどこでも高いとは限らないのです。

 

6)地域の事業者の協力の程度がコストを左右

 地域のスーパーやコンビニ等々人の集まりやすい所が回収拠点になってくれるか否かでコストは大きく変わります。店頭で、トレー、ペットボトル、牛乳パックなどの分別収集を自主的に行う店が増えましたが、箕面市では、スーパーが箕面市が依頼してペットボトルの回収拠点になってもらっています。特にトレーは、容リプラとして集められた場合には、殆ど再利用されていないので、役割は大きくなります。他の容リプラと一緒に集められると、破袋の過程でトレーが粉々になってしまい、選別しがたくなるからです。

 

 このように、コストを決める要因はたくさんあるのに、専門家やマスコミは、現場のコスト構造をよく知らないままトンあたりの単価で単純に比較し、燃やした方がコストが安いという安易な結論を出すのです。

 次号では、これらの計算をして、プラスチックリサイクルを進めることを決めた宝塚市と生駒市の事例を報告します。

(記 森住 明弘)

 

 

大阪市ごみ減量市民フォーラム 

『市民共同で進めるごみ減量』

〜具体的事例から実践への概要〜

日時  10月30日(土)午後1時30分〜午後4時30分

場所  クレオ大阪中央 4階 セミナーホール(大阪市天王寺区上汐5−6−25)

基調講演  花田 眞理子さん (大阪産業大学人間科学部 教授)

        〜環境やごみ減量に取り組むため、自らのライフスタイルをどう変えていくか〜

シンポジウム  コーディネーターは花田 眞理子さん

    ◆藤井 園苗さん(NPO法人 ゼロ・ウェイスト・アカデミー(徳島県上勝町) 事務局長)

◆作花 哲朗さん(北九州市環境局循環社会推進部 循環社会推進課長)

◆仲村 達郎さん(NPO法人 町田発・ゼロ・ウェイストの会 理事)

◆村上 勝幸さん(大阪市環境局環境施策部家庭系ごみ減量担当課長)

定員 150名(先着)

申込み 参加者の名前・所属・連絡先を明記、E-メールか電話・FAXで下記「問合せ・申込み先」まで

主催  大阪市環境局  http://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/index.html

問合せ・申込み先(企画運営) 

NPO法人 ごみゼロネット大阪 

552-0021 大阪市港区築港2-8-24 piaNPO 507号室

    TEL&FAX06-6167-9367    E-mailgomizero@mbox2.inet-osaka.or.jp