灰溶融の実態 Ⅱ

 

国の施策で自治体を振り回す結果に

 1983年、日本で初めて焼却炉からダイオキシンが検出された。以降、国は、ダイオキシン類対策を本格的に取り組む。専門家会議の設置、1990(平成2)年旧ガイドライン発表 1997(平成9)年新ガイドライン発表 1999(平成11)年ダイオキシン類対策特別措置法成立施行。

 これと軌を一にして、1991年「廃棄物IMGの処理及び清掃に関する法律」が改正されて、飛灰が特別管理一般廃棄物に指定される。そして、1996(平成8)年国庫補助金の取扱要綱が一部改正され、ダイオキシン対策と焼却灰の減量・リサイクルのため、新設のごみ焼却炉には、飛灰を含む焼却灰の溶融・固化設備が付置されることとなる。特に、国庫補助支給に関して、1996年度~1998年度においては、「灰溶融固化設備を有していること」が必須条件であった。1999年度~2004年度においても「原則として溶融固化設備を有していること」になっていた。2005(平成17)年度以降は、灰溶融施設の整備の有無については選択性が認められるようになった。そして、遂には、前号に載せたように、「環境省所管の補助金等に・・・灰溶融固化設備の財産処分・・」という通達を出し、灰溶融固化設備の廃止をも認めるのである(20103月)。上の「ダイオキシン類の排出総量の推移」からも分かる通り、国の施策が功を奏し、ダイオキシン類の排出量が急激に減少したことが方針変更をもたらしたとも言えるが、結果的に、自治体は、その都度、国に振り回されたのである。

 

国の思惑とは

 旧厚生省の平成10327日付情報をみると、灰を溶融固化することで、国は以下の3点を目指していたことが分かる。

・焼却灰の無害化

  ・最終処分地の負荷軽減(延命)

  ・灰を溶融することで生じるスラグ&メタルの資源化

そして、目指す焼却灰の無害化、最終処分地の延命等について、次のように説明している。 

 1.焼却灰に含有される金属類の中で、低沸点の重金属類(水銀、カドミウム等)は、加熱・溶融時に揮散し、排ガス側に移行し易く、溶融固化物中の含有量を低減することができる。

 2.溶融固化物中に残る重金属類は、溶融固化物の主成分であるシリカ(SiO2)により、Si-O2の網目構造の中に包み込まれ、溶出防止固化の高い性状を示す。

 3.焼却灰等の中のダイオキシン類は、溶融時の高温条件により熱分解し、溶融固化物中にはほとんど残存しない。

 4.高温で加熱溶融し、その後冷却固化することで、容積で約1/2(元のごみの状態から約

1/40)に減溶化し、さらに、生成されたスラグやメタルを資源化することで、最終処分地の延命を図る。

 

コスト面でみた自治体側の実情

 横須賀市の検討委員会の資料(20101122日)からみてみると

1.灰溶融施設付帯有無による建設コストの差異(ストーカ炉において)については、

     ・ストーカ炉単体建設単価:約3,400万円/t

      ・ストーカ炉+灰溶融炉建設単価:約4,200万円/t

      ・コスト高:約800万円/t

 となり、建設単価は1t当り約800万円の割高となる。

 2.処理コストについて、東京23区清掃一部事務組合の報告書(2009年7月)でみると 平均 55,000円/灰t となっており、ストーカ炉単体の処理コスト(約2万円)よりかなり割高となっている。大阪の当該施設に問い合わせたが、残念ながら計算していないとの回答であった。

3.最終処分場までの運搬は、ほとんどが業者委託で、自治体によって、t 当りもしくは距離契

約するところがある。問い合わせたところ、大阪では、金額は約1,000円/tから4,000円/tという回答であり、東京23区では、距離契約で、100㎞まで約6万円の範囲内だ。

4.最終処分場は、関西ではフェニックスがあり、焼却灰もスラグも一般廃棄物として搬入され、

料金は、5,250円/tである。東京23区では、焼却灰(一部スラグ含)は中央防波堤埋立処分場に埋立てられ、料金は9,500円/tであり、スラグは、2/3以上が路盤改良材として使用されているとのことであった。

◎少し乱暴だが、上記の数値を基に、東京23区清掃工場から最終処分場までの計算(t当り)をしてみると  焼却灰・・・2万円+6万円+9,500円=89,500円

       スラグ・・・5.5万円+6万円+4,750円=119,750円

となり、灰溶融の方が割高となる(運搬費は、量が1/2になっても変わらない)。

大阪府下では灰溶融廃止も

 溶融設備を設置した目的は、どの施設でも

   焼却灰の無害化

   最終処分地の負荷軽減(延命)

   灰を溶融することで生じるスラグ&メタルの資源化

を挙げている。このことは、国と自治体とで目指すところが一致している。しかし、現実には、コスト高のうえに、施設の操作&現場管理が難しい。例えば、温度管理、「出滓口」の切替えや耐火レンガの交換工事、溶融メタルの抜き出し作業、排ガスダクトの点検・清掃等々である。

 さらに、担当者を悩ませるのは、スラグやメタルの資源化である。各方面に売り込んでも、ほぼ引き取り手が無いのである。国は、路盤材、コンクリート骨材、アスファルト混合物用骨材、埋め戻し材、歩道用ブロック等への利用を考えていたが、用途がほとんどないのが現状だ。やむなく、当該自治体内の路盤改良材として、使用しているのが見られるくらいだ。

 CO2削減の動きも足かせになっている。各自治体で温暖化対策の計画が実行に移されており、清掃工場も例外ではない。いろいろな要因が重なり、大阪府下5施設の内、南河内環境や泉北環境の施設では、廃止もしくは今年中の廃止を決めたのである。            (文責 山下)